機械で物を動かす場合、物の軌道と、その駆動方法を設計しなければなりません。
丸台を使った組紐づくりを観察すると、錘をつけた糸を持ち上げ、丸台の縁の円周上を移動し、決められた位置に下すという動作に集約されます。
この軌道は、円運動と上下運動 (厳密に言えば、他の糸にぶつからないよう、少し外側) に分解でき、双方を合成することで実現できます。
さて、この2軸の機構をどのように組み合わせるのか。その方法はいくつも考えられるのですが、設計する際、私が気になっていたことは、モーターやセンサーなど電子回路の配線の問題です。
一方の軸機構の上に他方の軸機構を積み上げる方式では、積み上げた機構の配線も一緒に移動してしまいます。
特に、回転運動の場合、線材が絡まったり、断線したりする恐れがあります。
この問題を回避するには、モーターやセンサーを移動させず、2軸を移動させる仕組みを考えなければなりません。
それには、モーターなどの配線部品を動作対象の外側に置き、一方の動きが他方の動きに干渉されない方向から動力を伝達する必要があります。
回転運動と上下運動を独立させる最も簡単な方法は、アームの上下2方向からそれぞれ軸機構の動力を伝達することです。しかし、これでは丸台を配置する場所がありません。
一方の駆動系を丸台自体に組み込む方法も考えられますが、錘玉をいくつも支える重量物を駆動するのは簡単ではありません。
上記以外の方法を考えた時、円運動で唯一、その角度に影響を受けない場所は、円の中心です。そこで、この場所から上下方向を駆動することにしたのです。
回転と上下の2軸の組み合わせ方が決まれば、それぞれの駆動方式を決めます。
まず、上下方向を考えます。
モーターの回転運動から上下方向の駆動方法で機構的に最も簡単なのは送りねじ方式です。
上下用のネジを回転運動を担う回転台の中心に配置します。
ネジの一端をモーターにギアを介して連結し、もう一端をアームにナットを介して連結します。
ネジの回転でナットは上下し、アームは支点を中心に弧を描いて上下するのです。
便利なことに、この弧の動きは、丸台の外側への移動も兼ねてくれます。
この駆動ネジの、もうひとつの利点として、ベアリングを介して回転台に固定することで、アームへの上下運動の動力伝達とともに、回転台を支える軸としての役目も果たします。
次に回転を考えます
アームの支柱は回転機構の台座、回転台に固定し、これを回転することでアームを回転させます。
上下の駆動機構を回転台の中心に配置したので、回転の駆動系はその外側に配置しなくてはなりません。
同時に、台座には複数のセンサーを配置するので、これらとも干渉しないようにします。
ギアによる駆動には、対象物の外側に歯を持ち動力源をその外側に配置する外歯車と、動力源を内側に配置する内歯車があります。今回は 全体の大きさを抑えるため内歯車にしました。
最終的に、回転台は内歯のついたカップ状になり、ここに位置検出用のスリットも配置しました。このカップ状の形状は、結果的にフォトインタラプタを外部光のノイズから守る役目も果たしています。
これで、2つの駆動部を独立して配置しながら、回転と上下の二つの動きを合成できるようになりました。
基本的な機構が決まれば、実際の設計に落とし込みます。
各部分の大きさは、既成部品の大きさから、ギア比などは、モーターの速度などから決めていきます。
机上での試行錯誤を繰り返し、現在の機構に至りました。
比較的短時間に、これらの作業ができたのはCADや3Dプリンタのおかげです。
私のような個人でも、設計・製作ができる、便利な世の中になりました。
実際に設計したものが形になり、思ったように動いた時は、正直、感動します。
それまでの苦労が報われる瞬間です。
ものづくりがやめられない理由がそこにあるのです。